ケア資格ナビ> 特集記事> 介護・福祉関連のコラム記事> 介護のICT化とは? メリット・デメリットと失敗しない方法
ICTとは「Information and CommunicationTechnology」の略で、情報通信技術を活用したコミュニケーションのことを呼びます。
言い換えるならば、直接対話や書面などを使って行っていたやり取りを、インターネットのような通信技術に置き換えることによって、より迅速かつスマートに業務を執り行う仕組みとも言えるでしょうか。
最も多くの企業で導入されている例として、勤怠管理におけるタイムカードの廃止がわかりやすいかもしれません。
これまで多くの企業では、紙のタイムカードに出勤時間を打刻していました。それを担当者が手計算で算出し、紙面の給与明細を発行していたのです。
ここにICT化を導入するとどうなるでしょう。まず、タイムカードや給与明細が電子化されるため、ペーパーレスとなりコストカットを図ることができます。
また、入力された数値をもとに自動的に給与計算が行われるため、ヒューマンエラーを減らすとともに無駄な工数を省くことができます。
空いた時間を使って別の作業に取りかかれるので、スタッフの負担を軽減するとともに、勤務時間の削減にも繋げることができます。
この他にも、すでに在庫管理や工場の生産ライン、さらには農業施設における温度管理に至るまで、さまざまな場所でICTの技術が活用されています。
こうした社会的な流れを受けて、いま、介護の現場でもICTを積極的に導入しようという動きが強まっているのです。
介護現場のICT化が急がれている背景として、まず第一に日本の急速な高齢化が上げられます。
2025年には65歳以上の高齢者ひとりを1.8人の若年層が支えることになる、とも言われており、このままではすべての国民が十分な介護サービスを受けられません。
そこで、ICTを活用して早急に介護現場の能率を上げ、人材不足問題を解消していくという方針が明らかになったのです。
ICT化により介護職員の業務負担が減れば、人材が定着しやすくなり、介護の質を向上させることができます。
また、一人あたりの作業量が減ることにより、少ない人数でたくさんの高齢者を支えられるようになります。
このように介護現場のICT化は、日本の将来を安泰にするために欠かせない急務なのです。
それでは、実際に介護現場で行われている、ICT導入の活用事例を見ていきましょう。
主に訪問介護事業所を中心に人気を集めているサービスです。
タブレット端末などのポータブル機器に専用アプリをインストールし、1名の訪問ヘルパーに1台ずつ配布します。
訪問介護員は利用者の自宅でアプリを開けば、サービスの開始・終了時刻はもちろんのこと、実施したサービス内容や利用者の様子なども、音声入力やボタンの押下によって簡単に記録することができます。
サービス提供責任者は、各ヘルパーが持ち帰った端末の情報をクラウド上で自動集計し、請求処理に役立てることができます。
介護施設では基本的に早番・遅番などのシフト交代制が設けられています。
交代の際は申し送りの作業が必要になり、それに手間取って帰りが遅くなるというスタッフも少なくないようです。
とある施設では、スタッフが日常的に使っているスマートフォン端末に、専用のチャットツールをインストールしました。
スタッフは各自が使い慣れた機器を扱うことになるので、操作方法に不安を覚えることなく、スムーズに利用を開始することができます。さらに、端末を購入する費用もかかることはありません。
このチャットツールを使って、LINEやSNSと同じ感覚で申し送りを行ったところ、以前よりもスタッフ間のコミュニケーションが活発になり、シフト申請の受付やシフト表の作成もスムーズに行えるようになりました。
その結果就労時間が削減され、余裕をもって退社できるようになったと言います。
最近ではコロナウィルス感染症の拡大を受けて、リモートワークを始めたいという需要も増えてきました。
そういった現場でも、こうしたICT化の取り組みは注目を集めているようです。
ICTの活用方法はITツールの利用だけに留まりません。
特別養護老人ホームなど夜勤を伴う介護施設では、数少ない夜勤スタッフが複数の居室を巡回しますが、居室の数が多ければ多いほど負担が大きくなります。
このとき見守りロボットを各居室に設置すれば、利用者がベッドから起き上がったことを感知し、自動でアラートを出すことができるので、介護事故の防止やスタッフの負担軽減に繋がるでしょう。
また、個別のバイタルサインを計測することにより、利用者の健康状態の把握に役立てたり、分析データをケアプランの参考資料として活用することも可能になります。
社会的な情勢をふまえ、国はICT化を目指す介護現場を支援するべく、さまざまな取り組みを始めています。
介護報酬加算や補助金制度もそのうちのひとつです。各施設に導入費用が支給されれば、経営に余裕が生まれるため、職場環境の改善や給与アップなどが期待できます。
このセクションでは、そんなICT化にまつわる介護報酬加算の一部をご紹介したいと思います。
主に訪問リハビリテーション事業や、通所リハビリテーション施設などで受けられる加算です。
リハビリテーションでは職員と関係者が、共通の目標や現状を把握することが肝心です。しかし、時間や場所などの都合から、定期的にリハビリテーション会議を開くのは困難なケースが発生します。
リハビリテーションマネジメント加算(Ⅱ)では、医師がテレビ通話などを活用してリハビリテーション会議に参加することが許可されています。テレビ通話などを用いて、医師が定められた回数のリハビリテーション会議に参加すると、加算を算定しやすくなります。
訪問介護や訪問リハビリテーションの現場で効果が期待される加算です。
例えばサービス提供責任者と外部の理学療法士などが、リアルタイムでコミュニケーションを図れる通信機器(ビデオ通話など)を用いて、利用者の歩行状況などを確認することにより算定されます。
利用者の自宅から通話を行うので、専門家が利用者の現状を直に確認することができ、より正確な状況を把握したり、助言したりできるようになります。
適切な介護を実施する上で、利用者の排せつ状況の把握はとても重要です。通常どんな施設でも排せつ記録を付けているはずですが、大切なのは記録する行為そのものではなく、それらを分析し、次の対応に繋げることではないでしょうか。
排せつ支援加算は、主に介護老人福祉施設などで排せつ分析にICTを活用し、結果をふまえた支援計画を実行した場合に算定されます。
排せつ記録をパターン化して分析し、排せつ障害の内容を特定することができれば、よりよいケアに一歩近づくことができるでしょう。
IT補助金とは、介護の現場でITツールを導入すると、経費の一部を支援してもらえる制度のことです。
具体的には介護ソフト(パッケージ、クラウドなど)の導入にかかる費用や研修費、サポートセンターの利用料や保守費用などが対象となります。
その他、介護ロボット導入支援事業なども対象とされており、上限10万円が支給されます。
ここまでICTの活用方法について見てきましたが、いざ導入しようとすると様々な課題が考えられると思います。
ICT化を進める上で、どのような準備をしておけば良いか最後に確認しておきましょう。
介護現場は平均年齢が高いため、IT機器に強い人が他業種に比べて少ない傾向があります。
業務効率のことを第一に考え、現場目線で使いやすさを見極められる人材を、ICT化のリーダーにすると導入しやすいようです。
また、ICT化を行うにはインターネット環境の整備や、パソコン・タブレットの用意、セキュリティ対策なども必要になってきます。
従業員だけで全ての問題を解決することはできませんので、トラブルがあったときにすぐ対処してもらえるよう、サポート体制のしっかりしている会社を選びましょう。
ITツールの使用料は、施設の規模(利用者人数など)やサービス形態によって異なります。
複数の会社に問い合わせ、個別の見積もりを取って比較検討することが必要です。
また、ITツールはスタッフ全員が使い慣れるまで、ある程度の時間がかかるものです。導入前に無料試用版を体験し、実際の使い心地を見極めてから導入することによって、コスト効率を改善することができます。補助金を積極的に使って導入費用を補いましょう。